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懐古的日本文学

主に近代以降(明治・大正・昭和)の日本文学、大衆小説の紹介や勝手な分析と感想、その他人文社会学系の本の紹介も。

カテゴリー "無頼派" の記事

⑤「女生徒」 太宰治/1939年

「女生徒」 太宰治 1939年(昭和14)
~多感な少女の移り気と憂鬱と~



 太宰お得意の一人称口述体の小説。ころころと揺れ動く少女の気持ちの変化が面白い。
10代の少女が一日の生活の中で、あちこちに考えが飛んで行ってしまう、移り気な気持ちと、時々感じる憂鬱をよく表している。そうそう、そうだよねと共感できるところがいくつもある。
 なんで10代って感受性豊かで、様々なものを見たり、聞いたり、様々な外部刺激から、いろいろと、とりとめもなく考えが浮かんでしまうのだろう。すぐあちこちに考えが飛んで行ってしまう。(私は今でもそうであるが…)
 この少女に限らず、人間っていうのは、朝を起きてから寝るまで、ほとんど一日中何か考えている。
考えていることすら気づかずに、考え続けていることもある。そして、次の瞬間にはもう何を考えていたのか忘れているということもある。「考える葦」とは本当によく言ったものだ。


~あらすじ~
ある女学生の、とある一日。朝目覚めてから就寝するまでの気持ちの揺れ動き。


・10代の少女の憂鬱
「女はいやだ。自分が女だけに、女の中にある不潔さが、よくわかって、歯ぎしりするほどいやだ。いっそこのまま、少女のままで死にたくなる」p.99。

「顔は、他人だ。私自身の悲しさや苦しさや、そんな心持とは、全然関係なく、別個に自由に生きている。(中略)目が、とってもいい。青く青く、澄んでいる。美しい夕空を、こんなにいい目になったのかしら。しめたものだ。」P.104

「肉体が、自分の気持ちと関係なく、ひとりでに成長して行くのが、たまらなく、困惑する。めきめきと、おとなになってしまう自分を、どうすることもできなく、悲しい。」P.115

・おかあさんへの思い
 父を早くに失った主人公の女生徒は、同性である母を客観的に分析したり、生意気で純粋さを失ってしまった自分を恥じたりする。

「私自身、くるしいの、やりきれないのと言っておかあさんに完全にぶらさがっているくせに、おかあさんが少しでも私に寄りかかったりすると、いやらしく、薄きたないものを見たような気持ちがするのは、ほんとうに、わがまますぎる。おかあさんだって、私だって、やっぱり同じ弱い女なのだ。」P.119


・女学生の家事労働
 小説のメインではないが、私は、主人公の一日を通しての働きぶりにかなり感心してしまった。

 年は16、7才だろうか。彼女は、学校に行く以外は一日中、一人前に家事をこなしている。
まず起きたら蒲団をたたんで、部屋のお掃除。
自分で縫った刺繍のついた下着を着る。
 朝ごはんのおみおつけを温め、朝食の支度。きちんと戸締まりして、通学。玄関前をちょっと草むしり。
帰宅すると、お客さんが来ているので、夕食を準備。お米をといで、魚は西京漬け、キュウリの三杯酢、卵焼き、もろもろ。
(実はこの時すでに戦時中なのであるが、物資統制はまださほど厳しくないらしい)
 お客が帰った後は、座敷を掃いて、お風呂を沸かす。
といっても、今みたいにボタン一つで沸くわけではない。石炭をくべて、湯を沸かす。火の様子を見ながら、その灯の元で宿題をする。
 夜はおかあさんに肩もみ、本の朗読してあげている。そして夜中に、洗濯(もちろん手洗い)、風呂掃除。
…以上が彼女の日課である。

なんともかいがいしい…。偉すぎる。
私よりもはるかに家事労働している…。ましてや高校生の頃、どれほど家事をやっていただろうか…と反省してしまう。


●雑談
 大宰は、実際の女学生の日記を参考にこの小説を書いたらしい。ならば、このクオリティーの高さは頷ける。
そうでなければ、中年男が、10代の少女の気持ちをこんなにわかりすぎているのは、正直ちょっと気味が悪い…
 個人的には、太宰の作品では、「人間失格」や「斜陽」などの自伝的要素が強いお話よりも、こういう創作された短編の方が好きである。ユーモアもあってとても面白い。
彼の自伝的小説の方は、自分をわかってほしい、自分の苦しみをわかってほしいという、心の叫びに見え(だから何回も心中未遂したのだろうが)、自己承認欲求の念が強すぎて、ちょっと重く感じてしまう…その気持ちは十分よくわかるのだが…
太宰の小説は女性を主人公にしたものも多く、私小説はなんとなく女々しい。
 特に女性の書き方が、現実的なのだ。
小説で、異性を描く場合、女性は現実的に男性を描くのに対し、男性は理想や願望を込めて女性を描くことが多いような気がする。ことに恋愛小説の場合、この傾向が強い。
(あくまで個人的な感想であるが)
あまりたくさんの作家を読んでいるわけではないので、大きなことは言えないが…
谷崎も女性が主人公の小説をたくさん書いているが、実話を元にした「細雪」でさえ身内の欲目や理想、願望といったものが少なからず含まれているように見える。
 その点、彼の女性像は、実在的な女性として見れ、男性が書いたものながら、共感してしまうのである。


・↑「乙女の本棚」最近よく本屋で平積みされている、若手イラストレーターによる文学絵本?シリーズ。いい世界観・・・

女生徒

・引用文献「富嶽百景・走れメロス他八篇」太宰治 岩波文庫(1957)より「女生徒」