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懐古的日本文学

主に近代以降(明治・大正・昭和)の日本文学、大衆小説の紹介や勝手な分析と感想、その他人文社会学系の本の紹介も。

2018年08月の記事

⑮「党生活者」 /小林多喜二 1932年

「党生活者」 小林多喜二 1932年(昭7)


~あらすじ~
 満州事変以降、軍需品を大量生産するようになった倉田工業では、工場内の労働環境の問題を取り上げたビラが定期的に撒かれている。
「私」は工場に「もぐり」として勤め、数人の同志とともにこの運動を行っているが…


・感想
 ●「非合法」運動について
 労働者の不満を取り上げ、団結を促し、最終的には国家体制の変革に繋げていこうとする、一連の流れが、分かりやすく学べる。
争議による労働環境の改善から、労働者の立場向上、革命に至るには、途方もない遠い道のりがあることもわかる。

 特に諸外国より労働者の立場(特に工場や第一次産業)が著しく低い当時の日本では、労働争議から結び付いて、社会主義思想に共鳴する人が今よりかなり多かったのだと、考えさせられた。
 ソ連崩壊後に生きている私には、社会主義国家はその機密性や指導者の絶対性から、「恐い」というイメージが強いが…。

 そして、党員生活の実態。
 特高に追われ、気の休まる瞬間もなく、住居を点々とする日々。
 しかし、「私」が捕まることを恐れているのは、苛烈を極める拷問のためではなく、仲間との連絡が上手くいかなくなったり、その結果活動に支障が来たされたりするためである。
 生活すべてを捧げ、命をもかけた活動には、ただただすごいと思うばかりである。

 ●工場での闘争
 資本家と労働者の対立という大筋は、蟹工船と変わらない。
 しかし、党生活者では、蟹工船の世界とは異なった、より複雑で狡猾な攻防戦が、繰り広げられる。

 工員を装い、両陣営から仕込まれたアジテーター。(サクラともいう)
 退職金や本採用などのエサをちらつかせ、労働争議を阻止しようとする工場側。
 それに対抗して、団結を図り、工場に要求を行うために、労働者に地道な根回しを続ける「私」たち。

 戦争は、貧富の差や国民の窮状を解決する手段であるという資本家。
  戦争→それに伴う産業の活性化、雇用創出
領土拡大→巨大市場の獲得、インフラ投資
 対して、 「大衆から積極的支持を得られなけらば闘争は成功しない」という信念のもと、時間をかけて説得し、仲間を増やしていく「私」たち。
 そこには、本当に貧富の差もなく、誰も飢えない輝かしい未来があるように見えて、心が動かされる人も多いと思う。

 しかし体制を変えるには、武力衝突もあろうし、政権奪取後、ソ連など多くの社会主義国家で、指導者や幹部が絶対的な権力を持つようになり、「大衆」を意識しなくなることは、想像できなかっただろう。
 体制変革のその後の道は、示されていないが(まだそこまで行く段階ではないからかもしれない)、そのあたりのビジョンはどうだったのだろうかと思った。

・「蟹工船・党生活者」小林多喜二  新潮文庫

「英国一家、日本を食べる」/マイケル・ブース

「英国一家、日本を食べる(SUSHI AND BEYOND What the Japanese Know About Cooking)」
 マイケル・ブース著 訳:寺西のぶ子



「日本料理なんて見かけばっかりで、風味のかけらもないじゃないか。あれに楽しみがあるのか?温もりがあるのか?もてなしの心があるってのか?(中略)-しかもみんな盗んだ料理だ 」p.9


 日本料理は「何でもかんでもショウユに突っ込むだけ」と思っていた英国人のトラベル&フードジャーナリストが、家族で日本に滞在し、各地の食文化に触れる料理体験記。
 著者は、菊乃井、いづうなどの名店から、東京、大阪、福岡、沖縄の庶民の味、北海道の海の幸など、日本の様々な食を食べ尽くす。

 日本食の事を知らない読者にも、日本の文化や料理がわかるように細かく説明があり、とてもわかりやすい。

 ユーモア(時にブラック)を交えて日本を観察する著者の語り口が面白く、好きになってしまった。
「相撲取りはみんな裸だ。えっと、そうだな、おむつみたいなものだけしか着けていないんだ。」(p.48)
ペリー大佐ー野蛮な軍人とまではいえないけれど、それでもかなり挑戦的な外国人ー(p.241)
とか、ところどころ吹いてしまう。
 家族の皆さんの反応も面白く、外国人の日本旅行記としてもおすすめ。

 伝統的な日本料理が、季節や素材の味を大事にしていることはよく知られていると思うが、「触感」の大事さにも触れられていて、そのことについていろいろ考えさせられる。
 確か、ロラン・バルトの「表微の帝国」にもそのようなことが書いてあった。

 ラーメンのもちもちを楽しむために、わざわざ「かん水」を発明したことを、この本を読んで初めて知った。
 日本語には、触感を表す擬音語も多い。
 のりはぱりぱり、滑らかな絹ごし豆腐、つるつるしたうどんなど。
 モチなんて味がないのに好んで食べるのは、独特の触感のためかもしれない。
 焼き鳥のいろいろな部位も、それぞれ触感が違って面白い。
 寿司は、ネタによって味だけでなく、様々な食感を楽しめる食感バイキングだろう。
 なめらかなトロやウニ、イクラのプチプチ、ツブツブのエンガワ、シャキッとした白貝・・・

 そして、一つの料理から、複数の食感を楽しむことも、日本人の大好物である。
 外はカリっと中はふっくらとした天ぷらや、プリプリのタコを楽しむたこ焼き。
 読んでいるとそういうことを感じて、食べたくなる。


 料理の取材についても、著者の熱意に押されるからだろう、名店の職人は、著者に料理の作り方や材料などを熱心に教えてくれている。
  企業秘密ではないのかとやや心配になるが…
 作り方や調味料、材料を教えても、そう簡単に自分たちのレベルに到達することはできないのだという自負があるのだろう。
何十年もかかって培ってきた職人技が、そこにはある。

 東京のとある天ぷらの名店(お店の名前が出ていない)のお話は、読んでいて為になった
 ブレンドする粉の種類、粉の作り方、揚げ方などのコツ。ぜひ作ってみたくなる。

 職人たちの中で一番印象的だったのは、菊乃井の料理長・村田氏の言葉である。
 神様からの贈り物である食材に、味を付けたり形を変えすぎたりするのは、「おこがましい」こと。
 食材の良さを引き立たせるために調理するのが料理人。

 個人的に中華や韓国料理など、濃い味付けが好きで、スパイスが聞いていて味がキマっているのも好きなのだが、これになれてしまうと、薄い味付けに物足りなくなってしまう。
 が、 この本を読んで、素材を生かした料理を意識したいと思った。

・「英国一家、日本を食べる」マイケル・ブース著 訳:寺西のぶ子 亜紀書房(2013)