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懐古的日本文学

主に近代以降(明治・大正・昭和)の日本文学、大衆小説の紹介や勝手な分析と感想、その他人文社会学系の本の紹介も。

⑭「蟹工船」/小林多喜二 1929年(昭和4)

「蟹工船」小林多喜二 1929年
~近代日本の暗部・使役労働者たちの実態~

・あらすじ
 明治時代。オホーツク海を運行する蟹工船では、企業の収益のみを重視し、労働者たちは、非衛生的かつ非人道的な扱いを受けていた。
 労働者の生命をも軽視した扱われ方に、彼らはだんだん憤りをあらわにしていく。


 開拓期の北海道を作りあげた労働環境の過酷さはよく知られている。
 囚人労働に起源を発する「タコ部屋」労働によって敷設された鉄道やダム、埋め立て地。
 爆発が日常的に起こる炭鉱。不毛の荒野を開拓していく農業。北の冷たい海で行う漁業...。
 広大な自然の恩恵と表裏の過酷さ。産業を興し一から街を作り上げていく苦労は、現代の私たちには想像もつかない。
 そんな中で、労働者たちの命は使い捨てのように扱われた。

・以下物語の核心に触れています。
 「監獄だって、これより悪かったら、お目にかゝらないで!」
 「こんなこと内地さ帰って、なんぼ話したって本当にしねんだ。」p.40
 「生命的だな!」「死ぬ思いばしないと、生きられないなんてな。ー瓦斯も恐ッかねど、波もおっかねしな。」p.41


 蟹工船には、東北をはじめとする各地から、様々な境遇の労働者たちが集められている。

 事故の頻発する鉱山に恐怖を覚え、やまを下りた元鉱夫。各地を流れ歩く「渡り者」や「季節労働者」。
 職業斡旋屋に騙されて連れてこられた学生上がりたちなど。
 彼らは、その劣悪を極めた不衛生さによって「糞壺」とよばれる狭いスペースで雑魚寝する。

 そして、彼らを打ちのめすのは、過酷な労働や不衛生な環境だけではない。

 仕事を放棄した雑役夫が、監督に閉じ込められて殺されたり、仲間の船が沈没したのを聞かされたりする。
 また、ロシア領内での密漁が国によって(!)奨励されており、ロシアの駆逐艦に追われるなど、精神的なダメージもかなり堪える。
 みな、それらの疲労や神経を、安くて強い酒で紛らわす。

炭鉱では、炭鉱事故が起これば労働者たちは生き埋めになる。
蟹工船でもいつ沈むかわからないようなボロ船に乗り、仲間の船が沈んでも見殺しにされる。
 このような物語や女工哀史を読むにつけ、近代日本の発展や北海道の開拓は、犠牲の上に成り立っているのだということを実感する。

 そんな中、彼らに一筋の光が。
漂着した漁夫たちは、偶然助けてもらったロシア人一家と中国人通訳と話し、自身の尊厳を自覚する。
 要約すると、「労働者と資本家の立場やパワーは実は逆」で
 「労働者が一番偉い、労働者がいなければパンがなくて、みんな死ぬ。」
 「数に勝る労働者は、団結し、協力すれば資本家や権力と戦える」
 使役されるのを当たり前として、過酷な労働に甘んじていた彼らを変えていくきっかけとなった場面である。
 社会主義革命がおこる原理をわかりやすく示していると思う。

 最後、自分たちの敵→現場監督から、資本家と癒着している軍隊、国家であると気づいていく労働者たち。
 今の労働者たちの権利を「当たり前」にしたのは、こうした奮起があったからだと強く感じた。

・引用文献「蟹工船・党生活者」より「蟹工船」小林多喜二 新潮文庫(1953)