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懐古的日本文学

主に近代以降(明治・大正・昭和)の日本文学、大衆小説の紹介や勝手な分析と感想、その他人文社会学系の本の紹介も。

「英国一家、日本を食べる」/マイケル・ブース

「英国一家、日本を食べる(SUSHI AND BEYOND What the Japanese Know About Cooking)」
 マイケル・ブース著 訳:寺西のぶ子



「日本料理なんて見かけばっかりで、風味のかけらもないじゃないか。あれに楽しみがあるのか?温もりがあるのか?もてなしの心があるってのか?(中略)-しかもみんな盗んだ料理だ 」p.9


 日本料理は「何でもかんでもショウユに突っ込むだけ」と思っていた英国人のトラベル&フードジャーナリストが、家族で日本に滞在し、各地の食文化に触れる料理体験記。
 著者は、菊乃井、いづうなどの名店から、東京、大阪、福岡、沖縄の庶民の味、北海道の海の幸など、日本の様々な食を食べ尽くす。

 日本食の事を知らない読者にも、日本の文化や料理がわかるように細かく説明があり、とてもわかりやすい。

 ユーモア(時にブラック)を交えて日本を観察する著者の語り口が面白く、好きになってしまった。
「相撲取りはみんな裸だ。えっと、そうだな、おむつみたいなものだけしか着けていないんだ。」(p.48)
ペリー大佐ー野蛮な軍人とまではいえないけれど、それでもかなり挑戦的な外国人ー(p.241)
とか、ところどころ吹いてしまう。
 家族の皆さんの反応も面白く、外国人の日本旅行記としてもおすすめ。

 伝統的な日本料理が、季節や素材の味を大事にしていることはよく知られていると思うが、「触感」の大事さにも触れられていて、そのことについていろいろ考えさせられる。
 確か、ロラン・バルトの「表微の帝国」にもそのようなことが書いてあった。

 ラーメンのもちもちを楽しむために、わざわざ「かん水」を発明したことを、この本を読んで初めて知った。
 日本語には、触感を表す擬音語も多い。
 のりはぱりぱり、滑らかな絹ごし豆腐、つるつるしたうどんなど。
 モチなんて味がないのに好んで食べるのは、独特の触感のためかもしれない。
 焼き鳥のいろいろな部位も、それぞれ触感が違って面白い。
 寿司は、ネタによって味だけでなく、様々な食感を楽しめる食感バイキングだろう。
 なめらかなトロやウニ、イクラのプチプチ、ツブツブのエンガワ、シャキッとした白貝・・・

 そして、一つの料理から、複数の食感を楽しむことも、日本人の大好物である。
 外はカリっと中はふっくらとした天ぷらや、プリプリのタコを楽しむたこ焼き。
 読んでいるとそういうことを感じて、食べたくなる。


 料理の取材についても、著者の熱意に押されるからだろう、名店の職人は、著者に料理の作り方や材料などを熱心に教えてくれている。
  企業秘密ではないのかとやや心配になるが…
 作り方や調味料、材料を教えても、そう簡単に自分たちのレベルに到達することはできないのだという自負があるのだろう。
何十年もかかって培ってきた職人技が、そこにはある。

 東京のとある天ぷらの名店(お店の名前が出ていない)のお話は、読んでいて為になった
 ブレンドする粉の種類、粉の作り方、揚げ方などのコツ。ぜひ作ってみたくなる。

 職人たちの中で一番印象的だったのは、菊乃井の料理長・村田氏の言葉である。
 神様からの贈り物である食材に、味を付けたり形を変えすぎたりするのは、「おこがましい」こと。
 食材の良さを引き立たせるために調理するのが料理人。

 個人的に中華や韓国料理など、濃い味付けが好きで、スパイスが聞いていて味がキマっているのも好きなのだが、これになれてしまうと、薄い味付けに物足りなくなってしまう。
 が、 この本を読んで、素材を生かした料理を意識したいと思った。

・「英国一家、日本を食べる」マイケル・ブース著 訳:寺西のぶ子 亜紀書房(2013)